さて、お目当ての山に到着した一行は、囲いのまくをはり、毛せんをしいて荷物を広げると、彦一の持って来たお弁当を食べる事にしました。そして花をながめるやら、踊るやら、歌をつくるやら、酒盛りをするやらして、みんな思う存分にお花見を楽しみました。そしていよいよ、お城ヘ帰る事になり、家来たちが持って来た荷物をかたづけていると、彦一が殿さまに言いました。「殿さま。このまま行きと同じ道を帰るのですか?」「ふむ。と、言うと?」「ごらんくだされ。向こうの山も、あの通りの見事な花盛りでございます。いかがでしょう。ひとつあの山の花をながめながらお帰りになっては」「なるほど、それはよい事に気がついたな」殿さまは大喜びで、さっそく家来たちに言いました。「まだ日も高いし、向こうの花をながめながら帰ろうと思うが、どうじゃ?」それを聞いた家来たちは、荷物をかついで向こうの山をこえるなんてまっぴらと思いましたが、殿さまの言葉には逆らえません。「はい。お供いたします」と、しぶしぶ頭を下げました。すると彦一が、
「では殿さま。わたくしがご案内いたします」と、みんなの先に立って歩きます。
殿さまが家来たちを見ると、みんな大きな荷物を持っていますが、けれど彦一は小さくたたんだふろしきを腰にぶら下げているだけです。殿さまは不思議に思って、彦一に尋ねました。「これ彦一。お前の荷物はどうした?」すると彦一は、ニッコリ笑って言いました。「はい、わたしの荷物は、みなさんのお腹の中にございます」
かるい帰り道