彦一も奥さんにはまいっていました。あしたは熊本まで歩いて行くという前の晩、奥さんに内緒でニゴリ酒を買って、戸棚に入れときます。奥さんは、お金をかせがず、酒ばかり飲んでいる彦一が隠しているニゴリ酒を、あくる朝、米のトギ汁とすりかえておいたのです。
彦一は、顔も洗ないで、奥さんにわからいようにキュツとニゴリ酒を飲んで出かけた。もうこのへんではニゴリ酒のキキメが出るはず・・・・・・とクビをひねり、一向元気が出ません。そのうちに足が疲れてくるのです。熊本へほうほうの程でつきました。米のトギ汁ですので、馬力が出ません。周りは口々に
「彦一、とってつかれているが、また二日酔いじゃないか。」
「なんの二日酔いだろかい。酒やつにだまされたようだ。」
奥さんに内緒にしたニゴリ酒、一本とられていました。