もう、出て来そうなもんだが……。」と、彦一がフロシキヅツミをさげて、宇土の手前まで行ったら、ヒョイと「宇土のスグルワラ」という狐が出て来たそで。
「彦一さん、何だろうか、そのツツミは……。」
「これか、これはね、八代の平山にだけしかなかベンデン柿てちいうめずらしい、うまか柿たい。あんまりめずらしかけん、熊本まで売りに行きよる。」
「そんなにうまかっなら、あたしにもちっと分けてはいよ。」
「そうよ買うならきゃあ売るばってん。」
「よかたい。」
二、三日したら宇土のスグルワラが八代まで泣いて来たげな。
「子どもに食わせたら、おなかが張って苦しんでいる。どうするのかな。」
「そっで、ベンデン(便出ん)柿て言うたろが……、なあに心配はいらん、沢山水をのませればなおります。」