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彦一どん

はなおうじ

いまどき若侍たちは、ビロードン着ものを着ているな、「ちっとも武士らしゅうなか、着ているのは駄目。」
て、おふれを出さしたげな。そればってん、そろっと町中で、着て歩くもんのおるて、きがしたもんだいけん、彦一に相談さしたげな。「とんさん、萩原のどて桜も、もう見ごろで、いつ花見ばしなはりますか。」
すると、殿様も彦一の気持がようわかっとらすもんだいけん「そぎゃんたいね、あさってぐらいどうだろうか。」
「よございますな。やりましょか。」花見の日は、そらもうよう晴れて、よか天気だった。そん日は、殿様のビロードンきもんを着て、おらしたもだいけん、若侍たちも、もっとるビロードンきものをきてよかと、大いばりだったって。

彦一が、きたないなりをした町人を、ぞろぞろつれてきて、殿様の前に出てきました、殿様にそん町人たちば見ふらすと、ぜんぶぞうりばっかり、むごうよかったぞうりをはいとらした。「彦一、今日はまたよかぞうりばはいとんね。」

「ああ、こんぞうりですか。こらですな、こんごろ町人の間ではやっとる、ビロードンはなおのぞうりですたい。」

「ほほう、こりゃおもしろか。家来の中にゃ町人のはなおを、きにいっとがおる。」て、言うわしたげな。

それかりさき、ビロードン着もんば着っとらした、「や、や、こりゃ、はなお氏……。」て言われ、着物がなくなったげな。

-彦一どん
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