中嶋町によくいいわた屋があったげなたい。いなかもんだとみたなら、高こうわたばうりつけよったげな。彦一が、こりをきいて、わた買い行ったげな。
「ごめんなっせ、わたの実を五しょうばっかりくだり、実はなぁ、わたかいしたっことがなくて、こまっとですたい。」
「ああ、そぎゃんかいた。ちょっと、まっとんなっせ、今おとしてやりますけん。」
わた屋は、いせえで十貫目のわたばだしてきて、実をとりだしたな。彦一はそうば見て、 「そん実のはいっとるわたは、いくらでっしゅか。」
「こらあな、まあまけといて二円ぐんらいでっしゅな。」
「ほう、高いですな。」
「ちかごら、何でんあがるもんだけんな。」
話しばしとるうちい、実ばとってしもうて、「またせましたなあ。すんまっせん、ちょうど五しょうありますばい。」
「いくらでっしゅか。」
「あんただけん、一円二十せんにまけとくたい。」
「そら高すぎるばい。うん、そんならせっかくだけん、実をとった残りわたでよかたい。ぜんぶで八十せんですたいな。」
彦二は十貫もあるわたを、八十せんでこうて、さっさもどったげな。番頭どんな、ぢだんだふんで、悔しがったそうです。