彦一のいえのおっかさんが死なしてから、今日でもう一周忌になるげな。彦一は仏さんにお経ばあげちやらんばんて思うたばってん、ぼんさんばやとうぜにがないもんだいけん、ぜんのかからんこじき坊主ばつれちきて、仏さんの前、坐わらせたげな。ところが、お経ばあげにゃん時になったばってん、こじき坊主のお経ば知っとるはずのなか。ちょうどそんとき、かべの穴のかりねずみやつが、チョロチョロ顔をだゃたもんだいけん、
「おんチョロ、チョロチョロて、でえらした。」
て、お経ばとなえらしたげな。たまがったねずみやつが、つらばひっこむと、
「というたら、ひっこうだ。」
ねずみやつが、チョロチョロて逃げたし、
「こんちくしょう、まぁて、のがさんぞ一。」
うしろん方で、こんようすば見とった彦一、おかしゅうなってしもうたげな。ところが彦一、こんおかしかったがお経は忘れきらん、ねごついいよったげな。そんとき泥棒やつがやってきて、そろっと戸のふし穴かりのぜてみたりゃ、
「おんチョロ、チョロて、でえらした。」
ひやってして、首ばひっこむっとしゃがな、
「てぇ、ゆうたら、ひっこんだ。」
彦一やつ、ねとるておもとったばってん、泥棒がげ出すと、「こんちくしょう、まぁて、のがさんぞー。」たまがった泥棒やつ、これはかなわでん、にげだしたげな。