「ささやぁ、すすだけえ。」
年の暮れの寒か日のこつ、八代町を彦一が売ってされきよったげな。とこるが、平屋と油屋の番頭どんが、
「ほら、こんまえ、かごん上、きじばのせて、からす、からすていうて売っといて、知らんけん安かろたい、て、おもうて『からすばくれ』て、いうたりゃ、ほんなからすばうった小ぞうたい。仇をうとい。」
「そらあ、おもしろかばい。いっちょやろ。」
二人りゃ話しばきめち、
「ささば一本くれんかい。いくらだろうか。」
「はい、一せんですたい。」
「たっかね。」
言いながり、平屋がさき一本こうたげな。そるかる油屋が、
「おれにゃ、すすだけ一本。」
彦一が、また一本とってやったりゃ、
「彦一、こらあ平屋さんとおなじこっちゃなっか、平屋さんは、ささ、おら、すすだけてこうたっぞ。」
こりば聞いて、にやっとした彦一が、
「だっだろかておもとったら油やの番頭さんでしたか。名前やーたしか・…-。」
「おら吉兵衛、こん人は平屋久六さん、ようおぼえとけ。」
「きゅうは、こんまえんごつだまされんぞ、はよ、ささじゃなか、すすだけばやらんか。」
おちいとった彦一は、
「なあ、だんなさん、おが売っとる竹も、屋号はささ屋で名はすすだけですたい。」
二人とも二の口がでんだったげな。